配達員がAIトレーニングデータを作る時代に
DoorDashが配達員向けに「Tasks」という新しいアプリをリリースしました。これは配達の仕事とは別に、スキマ時間を使って小さなタスクをこなすことで追加収入を得られる仕組みです。
タスクの内容は一見変わっています。たとえば、自宅で皿洗いをしている様子をボディカメラで撮影する、他言語で自分の発話を録音する、日常的な作業を撮影するといったものです。これらのデータはすべて、AIやロボットが現実世界を理解するためのトレーニングに使われます。
DoorDashのタスク担当ゼネラルマネージャーであるEthan Beattyは、「米国のほぼどこにでもリーチできる800万人以上の配達員がいて、配達以外でも柔軟に稼ぎたいと考えています」とコメントしています。配達の待機時間や休日を使って、自分のペースで稼げる選択肢を増やすのが狙いです。
具体的なタスクの中身
Tasksアプリで提供されるタスクは、大きく分けて2種類あります。スタンドアロンの「Tasks」アプリで完結するものと、既存のDasherアプリ内で表示される配達関連のタスクです。
スタンドアロンアプリのタスク例としては、皿洗いの手元映像をボディカメラで撮影する(少なくとも5枚の皿を洗い、各皿を数秒間フレームに収める)、他言語での発話を録音する、日常的な作業を撮影するといったものがあります。これらは自宅や好きな場所で完結できるタスクです。
一方、Dasherアプリ内のタスクは配達業務と関連しています。レストランのメニュー用に料理の写真を撮影する、ホテルの入口を撮影する、Waymoの自動運転車のドアを閉める作業などです。特にWaymoとのパートナーシップは注目で、自動運転技術の改善に配達員が直接貢献する形になっています。
報酬は事前に表示され、タスクの手間と複雑さに基づいて決まります。ただし具体的な金額は公表されていません。簡単な撮影タスクなのか、複雑な録音作業なのかによって変わってくるようです。
収集したデータはどう使われるのか
DoorDashの公式ブログによると、配達員が提出した音声や映像素材は、同社のAIモデルだけでなく、小売・保険・ホスピタリティ・テクノロジー分野のパートナー企業が開発するモデルの評価にも使われます。
たとえば皿洗いの映像は、家事ロボットが食器を認識して洗う動作を学習するのに役立ちます。レストランのメニュー写真は、配達アプリの商品表示を改善したり、在庫管理システムと連携したりする際のデータになります。ホテルの入口写真は、配達員が建物を見つけやすくするナビゲーション改善に使えるでしょう。
つまり配達員が日常的に目にする「現実世界の情報」を、AIが理解できる形に変換する作業を担っているわけです。DoorDashはこれを「物理世界をデジタル化する強力な能力」と表現しています。
Uberも同様の取り組みを発表済み
実はこの動き、DoorDashだけではありません。Uberも2025年後半に、ドライバーがAIモデルのトレーニングに役立つ写真をアップロードするなどの小さな仕事をこなして追加収入を得られる計画を発表しています。
ギグワーカーをAIデータ収集の担い手として活用する流れは、今後さらに広がりそうです。配達やライドシェアの企業にとっては、すでに全国に分散している労働力を使って効率的にデータを集められます。ワーカー側にとっては、配達の待機時間や休日を使って収入を増やせる選択肢が増えます。
ただし現時点では、Tasksアプリの提供地域は米国の一部に限られています。カリフォルニア州、ニューヨーク市、シアトル、コロラドは除外されており、労働法規制の厳しい地域では慎重に展開している様子がうかがえます。DoorDashは今後、より多くのタスクタイプや国への拡大を計画しているとのことです。
フリーランスへの影響
この動きは、日本のフリーランスにも示唆を与えてくれます。まず、AIのトレーニングデータ作成という新しい収入源が生まれつつあることです。配達員に限らず、特定のスキルや設備がなくてもできる作業が増えています。
たとえば音声録音のタスクは、多言語話者であれば自宅で完結できます。映像撮影のタスクも、スマートフォンがあれば参加可能です。従来の「データ入力」や「アンケート回答」といったクラウドソーシングに近い感覚で、AI時代の新しいマイクロタスクとして定着するかもしれません。
一方で、プライバシーやデータの使われ方には注意が必要です。自宅での作業映像や音声がどこまで匿名化されるのか、どの企業のAIモデルに使われるのかは、現時点では詳細が不明です。参加する際には利用規約をしっかり確認する必要があります。
また、こうした仕組みが日本に上陸するかどうかも不透明です。労働法や個人情報保護の観点から、米国と同じようには展開できない可能性があります。ただしAIデータ収集のニーズ自体は世界共通なので、何らかの形で類似サービスが登場する可能性は高いでしょう。
まとめ
DoorDashの「Tasks」は、ギグワーカーとAI開発を結びつける興味深い試みです。配達以外の時間を使って、日常的なタスクをこなすだけで報酬が得られる仕組みは、今後他の業界にも広がる可能性があります。
日本ではまだ展開されていませんが、AIデータ収集という新しい働き方の選択肢として、動向を追う価値はあります。今すぐ何かアクションを起こす必要はありませんが、こうした流れがあることを知っておくと、将来的な収入源の選択肢が広がるかもしれません。


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