何が起きたのか
Grammarlyといえば、多くのライターやブロガーが愛用している文章校正ツールです。英文のスペルミスや文法の間違いをリアルタイムで指摘してくれるため、英語で記事を書くフリーランスにとっては心強い存在でした。
そのGrammarlyが2025年8月、「Expert Review」という新機能を追加しました。これは、著名な作家や技術ジャーナリストの視点から執筆のフィードバックを受けられるというもの。たとえば、The VergeやWiredといった有名メディアのジャーナリストや、世界的に知られる作家の名前が画面に表示され、「この人ならこう書き直すでしょう」という提案が表示されます。
しかし問題は、これらの著名人が実際にはまったく関与していないという点です。Grammarlyは彼らの公開作品をAIに学習させ、そのスタイルを模倣したアドバイスを生成しているだけ。本人からの許可は得ておらず、提携関係もありません。さらに、すでに亡くなった学者の名前まで使われていたため、歴史家のC.E. Aubin氏は「これは本物のエキスパートレビューではない」と強く批判しました。
なぜこの機能が作られたのか
Grammarlyの狙いは、ユーザーに「憧れの書き手のようなスタイルで書けるようになる」という体験を提供することだったと考えられます。AIが進化するなかで、単なる文法チェックだけでなく、よりパーソナライズされたアドバイスを求める声が高まっていました。
たとえば、ビジネス文書を書くときに「この有名経営者ならどう表現するか」を参考にしたい、あるいは小説を書くときに「好きな作家のトーンに近づけたい」というニーズです。そうした期待に応えるため、Grammarlyは著名人の名前を前面に出した機能を開発したのでしょう。
ただし、Grammarlyは機能の説明欄に「これらの人物との提携や承認を示すものではありません」と小さく記載しています。つまり、本人たちの関与がないことは最初から認識していたわけです。それでも実名を使ったことが、今回の批判につながっています。
フリーランスライターへの影響
この問題は、英語で執筆するフリーランスライターにとって重要な意味を持ちます。
まず、Grammarlyを使っている人は、この機能を信頼しすぎないよう注意が必要です。画面に表示される「○○氏のレビュー」は、あくまでAIが生成した模倣であり、本人の考えを反映しているわけではありません。たとえば、クライアントに「このジャーナリストのスタイルを参考にしました」と説明したとしても、実際にはAIの推測に基づいているため、誤解を招く可能性があります。
また、この機能を使うこと自体が倫理的にグレーゾーンだという意識も持っておくべきでしょう。著名人の名前を借りたAI生成コンテンツは、今後さらに議論を呼ぶテーマです。特に、亡くなった人物の名前が使われている点は、多くの人が不快に感じる要素でもあります。
一方で、この騒動はAIツール全般に対する信頼性の問題を浮き彫りにしました。便利なツールほど、その裏側で何が行われているかを確認する必要があります。Grammarlyに限らず、AIライティングツールを使う際は、どのようなデータで学習しているのか、誰の権利が関わっているのかを意識することが大切です。
今後の見通し
この機能が今後どうなるかはまだ不明です。批判を受けてGrammarlyが機能を修正するか、あるいは削除する可能性もあります。ただし、同社はこれまでのところ公式なコメントを出していないため、当面はこのまま提供が続くと見られます。
フリーランスとして考えるべきは、こうした機能を使うかどうかの判断基準です。たとえば、個人のブログ記事やSNS投稿であれば、倫理的な問題を気にしつつも実験的に使ってみる価値はあるかもしれません。一方、クライアントワークや公開記事では、こうした機能の使用を避けたほうが無難でしょう。
また、この事例は他のAIツールにも波及する可能性があります。著名人のスタイルを模倣する機能は、今後さまざまなツールで登場するでしょう。そのたびに、本人の許可があるのか、倫理的に問題ないのかを確認する習慣をつけておくことが重要です。
まとめ
Grammarlyの「Expert Review」機能は、便利そうに見えて倫理的な問題を抱えています。本人の許可なく著名人の名前を使っている点は、今後のAIツールの方向性を考えるうえでも注目すべき事例です。
もしあなたがGrammarlyを使っているなら、この機能は慎重に扱うことをおすすめします。特にクライアントワークでは使わないほうが安全です。AIツールは便利ですが、その裏側で何が起きているかを理解したうえで、自分なりの判断基準を持つことが大切です。
参考リンク:
TechCrunch: Grammarly’s ‘Expert Review’ is just missing the actual experts


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