「もし崩壊するなら」——ダモダラン教授が見ているリスク
評価論(バリュエーション)の世界的権威として知られるNYUのアスワス・ダモダラン教授が、AIブームの過熱感に対して注意を促す見解を公表しました。教授が強調しているのは「AIバブルが必ず崩壊する」という断言ではなく、「もし崩壊した場合、その痛みはドットコム崩壊よりも広範囲に及ぶ可能性がある」という点です。この微妙なニュアンスは、受け取り方を大きく左右するので、最初に押さえておく価値があります。
ドットコム崩壊とAIブームの「構造的な違い」
2000年前後のドットコム・バブルを思い出すと、当時の投資は主に株式で賄われていました。つまり、バブルが弾けたときに大きな損失を被ったのは、主に株主でした。企業が倒産しても、債権者への連鎖的な影響は限定的なケースが多く、痛みの範囲はある程度コントロールされていたと言えます。
一方、現在のAIブームでは状況が異なります。データセンターの建設、専用チップの大量調達、エネルギーインフラの整備といった大規模な設備投資(CapEx)が、世界中で急速に進んでいます。そして重要なのは、その投資資金の一部が株式だけでなく「債務」によって調達されているという点です。
債務を抱えた投資が焦げ付いた場合、損失は株主にとどまりません。貸し手である金融機関、さらにはそれと連鎖する取引先や雇用にまで影響が波及する可能性があります。ダモダラン教授はこの構造的な違いに着目し、崩壊が起きた場合の社会的な波及効果はドットコム期よりも大きくなりうると述べています。
「バブルかどうか」よりも重要なこと
ここで一つ冷静に考えてみると、ダモダラン教授自身は「AIバブルが崩壊する」と断言しているわけではありません。AIが実際にビジネスや社会を変革する技術であることは、多くの専門家が認めるところです。問題は、その期待値が現実の収益化スピードを大幅に上回るペースで投資が膨らんでいないか、という点です。
たとえば、ChatGPTやClaudeといったAIサービスは確かに多くの企業に導入されていますが、それらのインフラを支えるために世界中で投じられている資金の規模と、現時点での実際のAI関連収益を比べたとき、そのギャップが大きいと感じる投資家や分析家は少なくありません。教授の警告はこの「投資規模と収益化速度のミスマッチ」に向けられているとも読み取れます。
フリーランスへの影響——直接的ではないけれど、無関係でもない
「AIバブルとか金融の話は、自分には関係ない」と感じるフリーランスの方も多いかもしれません。確かに、株式市場の動向が明日の仕事に直接影響することはほとんどないでしょう。ただ、少し視野を広げると、いくつか気にしておく点が見えてきます。
まず、現在フリーランスが利用しているAIツールの多くは、ベンチャーキャピタルや大企業からの投資によって「採算度外視」で提供されているものが少なくありません。もし市場環境が大きく変化した場合、サービスの値上げ、機能の縮小、あるいはサービス終了といった事態も考えられます。特定のAIツールに業務を深く依存させすぎないことは、リスク管理のひとつとして意識しておいても損はないでしょう。
また、AI関連の企業やスタートアップをクライアントとしているフリーランスにとっては、業界全体の資金調達環境が悪化すれば、発注量の減少や予算縮小につながる可能性もあります。これは今すぐ心配すべきことではありませんが、クライアントの業種を分散させておくという基本的な姿勢は、改めて考えるきっかけになるかもしれません。
逆に言えば、AIツールをうまく活用しながら自分の専門スキルや顧客との関係を強化しているフリーランスにとっては、市場が揺れたとしても影響を受けにくい立ち位置を確保できます。ツールに振り回されるのではなく、ツールを使いこなす側でいることが、長期的には安定につながるでしょう。

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